夏の鈴
夏の日、親父
その日の夜はなぜかぐっすりと眠れた
それは満足したからじゃなくて、眠れない程悩んで朝を待つ事が損だと思ったから
だって悩んでいても、悩んでいなくても時間は同じように過ぎていくし
ただその時を待つだけならどうしようではなく、
どうにかしてやろうと思う事にした
そして7月26日の朝が来た
俺は寝坊する事なく親父とジョギングに行って汗を流した
会話のキャッチボールは途切れる事がなくて、どこまででも走れるぐらい楽しかった
家に帰るなり、親父は汗を拭いて縁側に腰掛けながら麦茶を飲んだ
使い古したうちわで風を作り、体を休めていた
俺はそんな様子を居間から見ていた
親父の後ろ姿に庭の背景
チリン…という風鈴の効果音
風鈴はチリン…チリン…と残りわずかな時を知らせるように鳴り続けていた
親父は明日死ぬ
分かっていた現実が少しずつ近づいてくる
俺はゆっくりと足を進めて親父の横に座った
『昨日は楽しかったな』
花火の事を思い出しながら、親父がしみじみと言った
『うん、楽しかった』
俺にとって忘れられない思い出