夏の鈴
………チリン…チリン…
チリン…チリン…
…………
風鈴の音が静かになって、俺はふっと前を見た
さんさんと照らしていた太陽はそこになくて、いつの間にかオレンジ色の風景に変わっていた
あれ?いつ夕方になったんだろう?
縁側で寝てしまったのかな……?
『……ねぇ、親父』
隣を見るとそこには誰も居なくて、あるのはオレンジ色に染まった庭だけ
後ろを振り返ってみたら、居間には散らかり放題のテーブルに食べかけの食べ物
ゆっくりと右手を喉元に移動させると、きっちりと第一ボタンまで閉められたYシャツがあった
庭を吹き抜ける風が運んでくるのは、俺の体に染み付いた線香の匂い
夢を見ていたのだろうか……
そんな事を思いながらズボンのポケットに手を入れると…
クシャッと何かが手に当たった
その瞬間、今まで我慢していた涙が滝のように溢れてきた
俺の手には一枚の千円札
親父の肩を揉んだ時、貰ったお金
夢ではない、確実に俺が時を遡ってタイムリープした証拠
夢じゃなかった
あの日々は夢じゃなかったんだよね?親父