夏の鈴


渋々、台所に戻るとおふくろと千代子さんの声が聞こえた

盗み聞きしている訳じゃないけど、なんとなく入りづらい


『理恵さん少し休んだ方がいいわ。台所は私がやるから』

誰にでも優しい千代子さんがおふくろの肩を叩いていた

『そうね……。ありがとう』と答えたおふくろは白い割烹着(かっぽうぎ)を脱いだ


『これからあっちゃんと二人で大変だと思うけど、私達に出来る事があればなんでもするからね』


『ありがとう千代子さん。でもあつしももう17歳だし、私一人でも何とかなるわ』

少し笑みを見せたおふくろだったけど、徐々にその瞳は真っ赤になった


『…だけどまさかこんなに早く逝ってしまうなんて………』

おふくろは肩を震わせ、割烹着で顔を押さえた

千代子さんはすかさず、そんなおふくろを抱きしめた

親父の病名は心筋梗塞

胸の痛みを訴えた二日後、息を引き取った

周りから見れば予想もしなかった突然の死


俺は親父が生死をさ迷っている間、外に居た

外でいつものように友達と遊んでいた

何回も何十回もおふくろから着信があったけど、いつもの説教だと思い、出なかった


現に夏休みに入って一度も家に帰ってなかったから



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