夏の鈴
お通夜の準備をしてくれた業者さんへの挨拶、参列者の香典、著名の準備
公民館は本当にお通夜の風貌になっていた
親父の遺体が置いてある祭壇に人が集まり、眠っているような顔を皆悲しげに見ていた
『あつし、ちょっと』
そんな中、おふくろに呼ばれ別部屋に連れていかれた
親父が死んだ昨日から数えて、おふくろと話したのはほんの少し
夏休みの間、一回も家に帰らず、親父が危篤の時に遊んでいた俺に苛立ちを感じているのは目に見えていた
『あんたもっと自覚を持ちなさい。お父さんが死んだのよ、他人事じゃないんだから』
大声を出したい気持ちを必死に押さえ、おふくろは涙目で言った
昨日から泣きっぱなしのおふくろの目は真っ赤に充血している
『……分かってるよ』
『分かってないでしょ!あなたは長男なのよ。お父さんはもう居ないんだからあつしがちゃんと……』
そう言った後、おふくろは言葉に詰まりハンカチで目頭を押さえた
俺はそんな空気に耐えきれず、『分かってるよ』ともう一度言って部屋を出た
線香の匂いが漂う公民館が少しだけ息苦しくて、俺は溜まらず外に飛び出した
親父が死んだ事を他人事なんて思ってない
だけどまだ悲しみは沸いて来なかった