誠ノ桜 -桜の下で-



「…嘘、ですよね?」


誘導するように言うと、松平は暫し口を噤ん
だ。


「………事件は起きた。だが、今の凜に言う事
はない」

「そうですか」


珍しく厳しい口調の松平に、凜は素直に引き
下がった。


…………表向き、は。



凜は部屋を後にすると、藩邸を出た。

向かう先は、桝屋。


凜は着いて驚いた。


桝屋は既に、手に掛かっていたのだ。

はたと思い立ち、今度は走る。


――新選組だ。

桝屋主人 桝屋 喜右衛門(マスヤ キエモン)、本名は
古高 俊太郎。

新選組が探っていた奴だ。

つまりは……。






「え、総た…いや、水城さん?」

「土方に用がある」


通して、と言うと新選組屯所の門番は直ぐに
道を開ける。

土方はどこにいるのか探そうとしたその時、
凄まじい叫び声が凜の耳まで届いた。


それが古高の拷問によるものだと思い、声の
する方へ走った。



< 120 / 154 >

この作品をシェア

pagetop