誠ノ桜 -桜の下で-
「…嘘、ですよね?」
誘導するように言うと、松平は暫し口を噤ん
だ。
「………事件は起きた。だが、今の凜に言う事
はない」
「そうですか」
珍しく厳しい口調の松平に、凜は素直に引き
下がった。
…………表向き、は。
凜は部屋を後にすると、藩邸を出た。
向かう先は、桝屋。
凜は着いて驚いた。
桝屋は既に、手に掛かっていたのだ。
はたと思い立ち、今度は走る。
――新選組だ。
桝屋主人 桝屋 喜右衛門(マスヤ キエモン)、本名は
古高 俊太郎。
新選組が探っていた奴だ。
つまりは……。
「え、総た…いや、水城さん?」
「土方に用がある」
通して、と言うと新選組屯所の門番は直ぐに
道を開ける。
土方はどこにいるのか探そうとしたその時、
凄まじい叫び声が凜の耳まで届いた。
それが古高の拷問によるものだと思い、声の
する方へ走った。