誠ノ桜 -桜の下で-



「でも何でここに?」


そう言って顔を上げた沖田の視線の先には、
夏なのにも関わらず咲き誇る桜。


「お母様に、会いに」


それを聞いた沖田は首を傾けた。


「……お母様はもう死んだよ。でもこの桜は、
お母様なのよ」

「桜が…」


沖田は改めて桜を見る。

どことなく凜に似ている気がするのは、親子
だからなのか……。


凜は自力で桜の下まで来ると、見上げて笑顔
になった。


「お母様、会いに来ました…」


そう言った凜の顔は、まだ幼い娘の顔だった。

凜の声に反応するかのように、桜はざわざわ
と揺れる。


『よく来たわね』

「お母様に言われましたから」


沖田は一人首を傾げていた。

桜の"木"の声は、凜にしか聞こえないらしい。


『すごい怪我ね……』

「……。痛いです。でも、平気」

『平気?』



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