誠ノ桜 -桜の下で-



「そう思ってくれて結構よ。女装なら烝にさせ
れば?」

「女装ってお前…女だろ」

「とにかく嫌だ。じゃ、私稽古に行くから」


早口にそう言って立ち去ろうとしたのだが、
土方は口を開いた。


「そうか、残念だなぁ」


含みのある言い方に、凜も思わず振り返る。


「……何」


食いついた凜に、土方は口角を持ち上げる。


「早く芹沢探って、仕事を終わらせれば……
会津藩邸に帰れるかもしれねぇのによ」


その言葉に、凜は無言になった。


「食事、風呂、稽古場。会津藩邸の方が、何かと
便利でいいんだろ?」


実際、会津藩邸の方がいい。

何しろ凜は姫扱いなのだし、藩邸は広い。

信頼し合える仲間や、凜が仕えるべき
松平もいる。


凜は、完全に土方に揺さ振られていた。


「帰りてぇんだろ?だったら、早く済ませろよ」



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