誠ノ桜 -桜の下で-
凜は特に怒る様子もなく、ぼんやりとそんな
沖田を見ていた。
「あのさ」
だから、決心した沖田が声を発したのに驚い
たのだ。
「凜ちゃん…、帰るの?」
「………え…あ…」
すっかり忘れていたとばかりに、凜は動揺し
ていた。
(そうだ、もう帰らなければならないんだ…)
どこか、寂しい気持ちになる。
「そう、ね。帰る…かな」
歯切れの悪い返事も気にせず、沖田は眉根を
寄せた。
「でも、まだ一日だけは絶対にいる。芹沢さん
達の弔い、まだだから」
せめて、芹沢さん達を見送ってから。
後は…それから、考える。
「おやすみ…総司」
「…おやすみ」
気まずい雰囲気が嫌になり、凜はさっさと部
屋の襖を閉めた。
(何なんだろう、このモヤモヤは……)
胸に手を当てて、目を瞑る。
「はぁ…っ」
ぶんぶんと雑念を払うように頭を振ると、
凜は布団を敷いて潜り込んだ。