誠ノ桜 -桜の下で-
凜は何も言う事もなくその場を去り、泣きな
がら演説をしている近藤を見つめた。
(本当、松平様みたいな人だな…)
情に厚い所とか、涙もろい所とか。
そう考えていると、松平の顔が浮かんだ。
…もう帰らなければ。
凜は少し前に自室に戻った土方の下へ向かっ
た。
「副長」
「ん…水城か。入れ」
スッと襖を開けて見ると、中は書類で一杯だ
った。
「うわ…何これ」
「芹沢の野郎の…まぁ、色々。苦情っつーかな」
頷く事もなく、凜は顔を上げた。
「今日、帰るよ」
「…………そうか」
一度書類の整理していた手を止め、土方は小
さく呟く。
「…総司には言ったのか?」
「まだ。……言うつもりも、ない」
どことなく、気まずい空気が流れた。
「私は会津藩松平公直属部隊隊長よ。…ずっと
壬生浪士組の総隊長でいる訳にもいかない」