誠ノ桜 -桜の下で-
「……この試合に俺が勝ったら、」
道場で、凜は沖田から竹刀を受け取る。
唐突に声を出した沖田は、表情がなかった。
何を考えているのか分からない笑顔すら浮か
べず、ただ凜を見つめていた。
「聞きたい事があるんだ」
凜は不思議に思った。
今まで、沖田に負けた事はない。
それどころか、押された事も……。
「…いいよ」
何を聞かれるかは想像出来ない。
でも今は、それを受けなければいけない気が
していたのだ。
「じゃあ、行くよ。始めっ」
開始と同時に、竹刀のぶつかり合う音が響く。
しかも、それから立て続けに。
「っ…!」
沖田が、凜を押していたのだ。
凜が弱くなった訳ではない。
ただ、沖田が凜の弱点を見切ったからだ。
押され弱いのは、剣も同じだった。
攻めるのや守るのは慣れている。
だが、突然の攻撃が苦手なのだ。