誠ノ桜 -桜の下で-
村人達は渋々と帰り、凜はホッと息を吐く。
『さぁ、もう大丈夫だ。お前の名は?』
『…………』
凜は緋桜を抱き締め、口を閉ざしていた。
恐怖を覚え、人すら怖くなったのだ。
松平は自分の傘を凜に渡し、笑顔になった。
『来たくないのなら良いが、共に来たいのな
ら来い。欲しい物を何でも与えよう』
そう言い残し、松平は付き人の傘に入って行
ってしまった。
凜は暫く悩んでいたが、耳を劈(ツンザク)くよう
な雷が鳴ったと同時に走り出した。
それ程遠くまで行ってなかったらしく、直ぐ
に松平の背中が見えてきた。
『ま……松平、様!!』
息を切らして走ってきた凜は、松平に飛び付
いた。
『おぉ、どうした』
『…雷が…怖いので、連れて行ってください!
お願いします!!』
頭を下げた凜と同じ目線に屈み込み、松平は
ニコリと微笑んだ。