《短編》夏の雪
車はS町に向かって走り出す。
彩音の家からあたしの家までは、車なら、15分ほどで到着する。
もうちょっとの我慢だ。
「あ、飲み物ないじゃん」
雪ちゃんのコーラのペットボトルは空だった。
「ちょっとどっか寄っていい?」
「いいよ」
“彩音の好きな人”と、何を話せばいいのかわからない。
てか、あいつ、どの程度本気なんだろう。
惚れっぽい彩音は、いつもカレシの有無に拘わらず、まるで芸能人に恋をするみたいに、あの人がいい、この人がいい、ばかり。
だからって、毎回本気かというと、そうでもないみたいだし。
車はなぜか、コンビニではなく、閉店したパチンコ屋の駐車場に入った。
雪ちゃんは、店の外に設置してある自動販売機の前で車を止める。
誰もいない夜のパチンコ屋の駐車場って、ちょっと怖い。
雪ちゃんは車を降りる間際、
「何か飲む?」
と、聞いてきたが、あたしは「いらない」と答えた。
すぐにコーラを買って戻ってきた雪ちゃん。
あんたコーラ好きなんだね。
雪ちゃんは、買ったばかりのコーラを喉の奥に流し込み、
「飲む?」
なんて、冗談半分にそれを差し出してきた。
多分、彩音は雪ちゃんのこういうところがいいんだと思う。
天然なのか計算なのか、花火してる時も思ったけど、雪ちゃんはさらりとそういうことをする人らしい。