《短編》夏の雪
「あたし、炭酸って苦手なんだよね。飲めないわけじゃないけど、ちょっと昔のトラウマがあって」

「そっか」


雪ちゃんは、小馬鹿にするわけでもなく、ふっと笑う。



早く帰りたい。

なのに雪ちゃんには帰ろうとする素振りはない。


車内のデジタル時計は0時を迎えようとしている。



「なぁ、夏美ちゃん」

「うん?」

「面白いよね、夏美ちゃんって」

「……え?」


と、怪訝な顔を向けた瞬間だった。


気付けば唇を奪われていた。

何が起こったのかよくわからなかった。



「……変なこと、しないんじゃなかったの?」


あたしの言葉は、この場にそぐわない、素っ頓狂なもので。



「別に変なことじゃないよ。本能的なもん」

「……は?」

「だから、いいの、いいの」


笑いながら言って、二度目の唇が触れた。

コーラと海の味。


今のは避けようと思えば避けられた気がするけど、何やってんだろうな、あたし。


そういやこの人、“彩音の好きな人”だったな。

どうしようかな、ちょっとやばい。



呼吸をするために少し口を開けると、そこから雪ちゃんの舌に侵食された。



あぁ、もう、だから早く帰りたかったのに。

どうすんのよ、これ。
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