《短編》夏の雪
act 2
翌日、登校してすぐに彩音に捕まった。
ちょっとドキッとしてしまったあたしには気付いていない彩音は、
「雪ちゃん、ほんと格好よかったでしょー?」
「……だね」
あたしは小さく胸を撫で下ろし、適当な相槌を返した。
「でもさぁ、あたしあれから眠れなくて、カレシの家に行ったわけ!」
「……あんた、タフだね」
「そしたらそこで喧嘩になってね、あいつひどいの! あたしが浮気してるとか思って、いきなりキレて!」
いや、あんた。
と、制しようと思ったが、やめといた。
あたしは心の中で昨日雪ちゃんとヤッちゃったことに対するお詫びの弁を述べながら、「そりゃひどい」と彩音に同調してやる。
「でしょ、でしょ! 夏美もそう思うじゃんね!」
彩音は朝から鼻息荒くカレシに対する愚痴を連ねている。
騒がしくて、忙しいヤツ。
そこでふと、昨日雪ちゃんが言ってた『常に一緒にいると疲れる』という言葉を思い出し、ちょっと笑った。
あたし達は、誰にも、何にも、執着したりなんてしない。
その時々で楽しいと思ったことをやって。
誰かや何かに縛られて、無駄にするような時間は残されてないのだ。
卒業まで、また一日近付いた。
そしてまた、妙な焦燥感に支配される。
卒業したらもう、“自由な子供”の特権が剥奪されてしまう気がしていたから。
って、結局どうなったら満足するんだろうね、あたし。
わかんないことだらけだよ。
自分自身のことも、先のことも、全部。
でもとりあえず今は暑いし眠いです。