《短編》夏の雪
「いやいや、意味わかんないし。もうこっち来てんの? あたしいなかったらどうするつもりだったわけ?」

「その時はその時っしょ。そしたら別の子に電話すればいいだけだし」


そうよね、あたしは所詮、あんたにとっては暇潰し程度の人間だもんね。

だけど、こうもあっけらかんとして言い放たれると、逆に清々しい。


「ふうん」とだけ返したあたしに、雪ちゃんは、



「あと20分くらいで着くと思うから。じゃーにー」


返事も聞かずに電話を切るだなんて。


見上げた部屋の壁掛け時計は、夜10時を過ぎた頃を指し示していて。

あいつに常識ってもんはないんだと、改めて思った。



あたしはベッドから体を起こし、髪の毛を掻き上げる。



馬鹿男に殴られた頬が痛い。

だから憂さ晴らしがしたかった。


あたしはそのまま部屋を出る。




家の前で待っていると、四駆が横に付けた。




「うぃーす」


見るからにチャラチャラした金髪男が、真っ黒にコーティングされた窓を半分ほど開けて、ぺろっと舌を出す。

ガラが悪い。


まぁ、それがこの人らしさではあるのだが、と、呆れ半分であたしは、四駆の助手席に乗り込んだ。



「マジでちょっと腫れてんじゃん、それ」

「わかる?」

「ひでぇな。暴力はいかんよ、暴力は」

「それ、あたしの元カレにも言ってやってよ」

「やだ。怖い。俺まで殴られる」

「ヘタレか」


笑ったら、ちょっとだけ怒りが引いた。
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