《短編》夏の雪
それからも、雪ちゃんはこれといった用もないくせに、気まぐれにあたしを呼び出しやがる。
多分あたしは、眠れない時に呼び出せる便利な相手とか、そんな感じなんだろうけど。
それでもその呼び出しを断らないのは、あたしが雪ちゃんに対して甘いから。
甘やかして、自由にさせてあげてたかった。
そうじゃなきゃ、雪ちゃんはきっとあたしの前から消えるだろうから。
餌付けしている野良猫と同じで、いなくなると、それはそれで寂しいと思うし。
「もうすぐ夏休みですねぇ」
今日も窓辺でうな垂れる彩音。
暑いんだったら日陰に入ればいいものを。
「どうしよっかねぇ、夏休み」
あたしも同じ口調で返してやる。
「あ、そういえばさぁ。昨日、雪ちゃんからメールきたよ」
「………」
「またみんなで遊ぼうね、だって。速攻、オッケーって返しといた」
また勝手なことを。
どういうつもりなのかわかんない雪ちゃんにも、あたしの予定を無視して返事してる彩音にも、ちょっとイラつく。
「夏美さぁ、カレシと別れたんだし、修司くんとかどう?」
「……どうって何が?」
「ちょっといかついけど、格好いいじゃん。付き合っちゃいなよー」
「興味ないよ、あんなボブ・マーリー」
「あはは! ボブ・マーリーって!」
彩音はひとしきり爆笑し、
「でも、海行った時、いい感じだったじゃん。お似合いだと思うけどね、夏美と修司くん」
あんなのと似合いたくないし。
てか、あたしそれ以前に、“修司くんの友達”とヤッてるし。
色んな意味で問題外じゃん?