《短編》夏の雪
雪ちゃん、ねぇ。

涼しそうな名前ですこと。


あたしは他人事のように思いながら、手でパタパタと風を作る。



「お願いー! 一緒に来てよー!」

「いいけどさぁ。あんたカレシいんじゃん」

「だーかーら、夏美さんに頼んでるんじゃないですか! あんたがいれば何事も上手く誤魔化せるでしょ!」

「はいはい。じゃあ、ジュース奢れ」


と、あたしが言った瞬間、彩音は急に目を輝かせ、「やったぁ!」と叫び、購買に向かって猛ダッシュ。

その後ろ姿を見送りながら、そこまでしても会いたいほどの男なのかねぇ、と、あたしはおばさんみたいなことを思う。


あたしは何の事前情報もない“雪ちゃん”を想像した。



「はい! 夏美の大好きな白牛乳!」


数分と経たずに戻ってきた彩音は、額に汗してそれを手渡してくるが、



「あのさぁ、あたし、白牛乳って世界で一番大嫌いなんだよねぇ」

「えぇ?!」


まぁ、もうどうでもいいや。



彩音には、名ばかりのカレシがいる。

もちろんあたしにもだけど。


でも、どうしてだか、あたし達は、何もひとつには絞れない。


まるで中毒者のように、刺激を求めてあっちへこっちへ。

残り少ない高校生活に、勝手にタイムリミットがあるみたいに感じて、一日たりとも無駄にはしないようにと生き急ぐ。



なのに、それでもいつも渇いていた。



「とにかく奢ったんだから、今日はよろしくね!」




雪ちゃんとの出会いも、そんな中で起こったこと。
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