《短編》夏の雪
「あたしのことはいいから、あんたこそどうなのよ? 雪ちゃんのこと、マジで狙ってんの?」


彩音はあたしの言葉に「んー」と首を傾げ、



「雪ちゃんはさぁ、遊ぶにはいいけど、本気になっちゃダメなタイプっていうか? 見るからに浮気っぽいし、マジになったら泣くばっかになるの、目に見えてるから」

「………」

「だから、付き合いたいとかはないけど、格好いいし、楽しいから、会いたいなぁ、とは思ってる、かな?」


何だ、彩音さん、ちゃんとわかってんのか。

もっと一直線なタイプかと思ってただけに、少し拍子抜けだった。



「まぁ、記念に一発ヤレたらラッキー、みたいな?」

「……何の記念よ?」

「わかんないけど、この夏の記念?」


馬鹿だ、こいつ。

だけど実際にヤッちゃってるあたしが言えるわけもなく、



「頑張れよー」


棒読みで手をひらひらとさせるあたし。



もしも、仮にだけど、もしも、彩音と雪ちゃんがヤッちゃったとしても。

きっとあたしの中には悲しみという感情は生まれない気がした。


雪ちゃんは誰のものにもならない人だから。



「あーあ、あたしもさっさと次の男でも見つけよ」


ぼやいたあたしに、途端に目を輝かせる彩音。



「よっしゃ! じゃあ、この夏はナンパされまくらなきゃだね!」

「いや、ナンパ男はもういいよ」

「何でー? たくさん出会えば、その中にいい人いるかもしんないっしょ?」

「……あんたねぇ」

「とにかく遊ぼう! そうしよう!」


勝手に決めて、息巻く彩音。


あんたカレシどうすんの。

と、聞こうと思ったが、愚問だからやめといた。
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