《短編》夏の雪
そこは普通のアパートだった。
お世辞にも何か特徴があるわけでもなく、住宅街に溶け込んでいて、見過ごして通り過ぎちゃいそうな。
目印にもならないような、普通としか言えないアパート。
一階の一室に案内された。
ちょっと広いけど、やっぱり普通のワンルーム。
雑然とした男の部屋だ。
「あ、AV発見」
エロ教師が好きなのか。
なんて、馴染んでどうすんのさ、あたし。
本棚にはAVと漫画とCD、そして小難しそうな参考書。
「いい大学出たってほんとだったんだね。これ何の本? 機械工学って何?」
「北高の人に説明してもねぇ」
「ちょっと、今あたしのことさらりと馬鹿にしたよね?!」
怒るあたしの手から、するりと参考書が奪われる。
くっそー。
確かにあたしは馬鹿学校に通ってるけど、こんな色の頭の人にだけは言われたくない。
「ねぇ、他に何か面白いもんないの?」
「あんま何もないよ? 引っ越しした時ほとんどのもん捨てたから」
「ふうん」
つまんないの。
と、再び本棚に目をやると、
「アルバムあるじゃん」
「見たい?」
「見たーい!」
雪ちゃんは肩をすくめ、
「見てもいいけど、面白くはないよ」