《短編》夏の雪
憮然とした顔で、雪ちゃんはそれを手渡してくれる。


ページを開いて、あたしは言葉が出なかった。

と、いうよりも、どうコメントするべきなのか、わからなかった。



「ほら、だから言ったのに」


そこに映るのは、雪ちゃんと、女の人。

多分、これが例の“カノジョ”だろうけど。


仲良さげに、チューしてる。



「浮気防止のためなんだって言ってたよ、あいつ」

「………」

「俺こんなじゃん? だからもしかしたら家に女連れ込んじゃうかもー、って。その時にこのアルバムがあれば、自分の存在を臭わせられるんじゃないか、ってね」

「………」

「まぁ、何の意味もないけどね」


雪ちゃんは気にも留めない様子で話す。



カノジョ、可愛い人だなぁ。

雪ちゃんってこういう顔がタイプなのか。


だから知りたくなかったのに。



「カノジョ、名前なんてーの?」

「ミチカ。みっちゃんって呼んでる」

「ふうん。可愛い白衣の天使ですこと」


あたしは雪ちゃんにアルバムを突き返した。



雪ちゃんが暮らす部屋。

雪ちゃんのカノジョ。


で、あたしは何?



「……ん?」


ふと湧いた疑問符に、あたし自身が驚いた。

あたしと雪ちゃんは何でもないからいいのに、なのに、今のは何だ?
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