《短編》夏の雪
あたしは雪ちゃんに対して、恋心なんてものはない。

確かに好きだけど、でもそれはそういうのじゃなくて、人間としてって意味で。


それなのに、どうしてわけのわかんないことを思っちゃうのか。



「どしたの?」

「あ、ううん。何でもない。深夜ドラマ録画してくるの忘れてたなぁ、ってだけ」


あたしは適当にだけ受け流し、ベッドに座る。


雪ちゃんは「そっか」と言いながら、ここに来る途中で買ってきたコンビニの袋から、ジュースを取り出しあたしに手渡す。

雪ちゃんのは、相変わらずコーラ。



「雪ちゃんってもっと奇抜な感じの部屋に住んでるのかと思ってたけど、普通だね」

「普通ですまんね。仕事辞めて遊び呆けてたら、どんどん貧乏になってって。で、最終的にはこんなワンルームだよ」

「自業自得」


指差して笑うあたし。

煙草を咥えた雪ちゃんの横顔を一瞥し、



「ねぇ、そういえばさぁ」

「んー?」

「雪ちゃん、彩音にまたみんなで遊ぼうとかってメールしたんだって?」

「あぁ、したね」


雪ちゃんは思い出したように言った。



「だって、面白いじゃん。夏美ちゃんが友達の前で、俺とのことを隠してどんな風に振る舞ってるのかって見物だし」

「そんなことのために?」


あたしは呆れた。


すると雪ちゃんはいたずらにじゃれてきた。

犬みたい。



「くすぐったいって! てか、煙草危ないから!」


と、その時だった。

ピンポーンと鳴ったチャイムの音に、びくりとする。
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