《短編》夏の雪
最後に煙草の煙を吐き出し、短くなったそれを灰皿になじった修司くんは、



「ってことで、きみ子が泣くから俺帰るけど、お前どうすんの?」

「んー、どうしよ」

「帰るんなら、ついでに送ってってやるけど」

「マジで?」

「ガソリン代払えよ」

「ひゃくおくまんえん?」


あたしの問いに、笑う修司くん。


我が家は放任なので、あたしがどこでどうしてようと、何も言われない。

だからどっちでもよかったんだけど、



「100円しかないけど、送れ」

「何様だよ、てめぇ」


いかつい顔で足蹴にされた。

でも全然痛くない。


よくわかんない男だな、ボブ・マーリー。



「ほれ、行くぞ」


雪ちゃんのことは起こさなかった。

どうせあたし達が勝手に帰っても気にもしないだろうし。


っていうか、雪ちゃんは、もしもあたしがある日突然行方をくらましたって、何の感傷も抱かないはずだ。


“カノジョのみっちゃん”のことを想う。

自由の象徴のような雪ちゃんを、必死で繋ごうとする人。




静かにふたりで雪ちゃんの部屋を出て、駐車場まで行くと、止まっていた修司くんの車は古いキャデラックだった。




「家どこ? ミカン畑?」

「死ね」


あたしは修司くんの目から見て、どんな風に映っているのか。


新聞配達の人が通り過ぎる。

夏の朝の匂いがしてきた。
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