《短編》夏の雪
サスペンションがぎしぎししてて、乗り心地の悪いアメ車。
レトロっていうか、ポンコツ。
格好いいのは見た目だけ。
「ねぇ、修司くんっていっつも雪ちゃんといんの?」
「いっつもとかじゃねぇけど」
「ふうん」
「俺、金持ちのおぼっちゃんだから、きみ子がくれる小遣いだけで普通に暮らしていけるんだよ。挙句、『わざわざ苦労して働かなくてもいいのよ』とか言われて」
「マジで?」
「マジで、マジで。だからふらふらと過ごしてて、今に至る」
信じられない。
ほんとにこういう人って実在すんのね。
でも、それはそれでつまらないとでも言いたげな顔の修司くん。
「雪とは、何か居酒屋で意気投合してさ。あいつあれで俺より3つも上だぜ? 信じらんねぇよな」
「え? てか、修司くんって雪ちゃんより年上なんだと思ってた!」
驚くあたしを、小馬鹿にしたように鼻で笑った修司くんは、
「んで、お前どうなの?」
「何が?」
「雪とのこと。俺があの時わっざわざ忠告してやったのに」
「別にどうもしないよ。あたしも雪ちゃんも、ただの暇潰しみたいなもんだし」
「へぇ、ドライだねぇ。まぁ、あいつとはそれくらいの距離感でいる方がいいよ」
「………」
「あいつはさ、ヤッたから特別な女だとか、そんなこと微塵も思わない人間だし。所詮は遊びの延長。飽きればさよならー、ってね」
今日はよく喋るな、ボブ・マーリー。
わかってんだから口出ししないでほしい。
「修司くんってよくわかんないよね。何でわっざわざあたしにそんなこと言うの?」
「さぁ?」
肩をすくめて、煙草を咥える。
雪ちゃんは何も考えてないから掴みどころがないけど、この人は、腹の中で何を考えているのか掴めない。