《短編》夏の雪
7月最後の日。
「何であんたまでいんの?」
夜11時に雪ちゃんから電話が掛かってきて、家の外に出てみれば、車の助手席には修司くんもいた。
あたしはあからさまに怪訝な顔。
でも修司くんもいかつい顔を歪めて睨んでくる。
「俺だって知らねぇよ。雪の部屋で寝てたら、いきなり叩き起こされて、これ」
「だって大勢の方が楽しいじゃん?」
そうだった、雪ちゃんの行動に意味はないんだった。
楽天的な言い方で笑う雪ちゃんを見て、あたしは肩を落とす。
「んで? 俺とナツミカン引き連れて、どこ行く気?」
「温泉」
「は?!」
修司くんとあたしの、驚きの声が重なった。
「秘湯があるらしいの。俺それ行きたいの」
「……ちょっと、それどこにあんの?」
「大丈夫、大丈夫。大体の場所はリサーチ済みだから」
「てか、秘湯って何?」
「地元民しか知らないらしいんだけど、テレビでやってたんだよ。すげぇ山の中なの! 猿も浸かるとか、めちゃめちゃ行ってみたいっしょ?」
もう、どこにどう突っ込めばいいのかわかんない。
あたしと修司くんは、引き攣る顔を見合わせた。
雪ちゃんの目はきらきらしてた。
「夏美ちゃん、乗って!」
早く、早く、と言わんばかりにあたしを後部座席へ手招いた雪ちゃんは、
「さぁ、みんなで冒険の旅に出発だー!」
ひとりで盛り上がっていた。
どうしよう、雪ちゃんがルフィに見えてきた。
激しく不安。