《短編》夏の雪
あたしはため息混じりに、初対面の修司くんと共に後部座席へ乗り込んだ。

積極的なのはいいが、少しはあたしのことも考えろっつーの。


こうなることは予想済みだったとはいえ、ものの数秒でとは。



冷房のガンガンに効いた車内で、あたしは息を吐く。



「いいね、高校生。つーか、制服が」


煙草に火をつけた修司くんは、横目にあたしを一瞥する。

ボブ・マーリーみたいな人だと思った。



「目当ては制服?」

「いや、中身もだけど」


顔色ひとつも変えることなく、平然と言う、修司くん。



「修ちゃん、口説くの早いよー。そういうのはもうちょっと後」


笑いながら、それを制するように運転席の雪ちゃんが、ルームミラー越しにこちらを見やる。


はたして無事に帰れるのか。

あたしは小さく肩をすくめる。



「ったく、何時間後の話してんだか」


呟いて、不貞腐れる修司くん。

運転席でまた笑った雪ちゃんと、こちらのやりとりなんてお構いなしに、運転中の雪ちゃんの腕に絡まっている彩音。


事故だけはしないでね、と、あたしは祈る。



「ねぇ、それよりどこ行ってんの?」

「内緒でーす」

「あっそ」


あたしはもう投げやりだった。


まさかホテルじゃないよね?

なんて台詞は、本当にそうだったら嫌なので、口にはしない。
< 5 / 62 >

この作品をシェア

pagetop