《短編》夏の雪
エピローグ
「夏美さん、今度結婚するってほんとですか?」
ランチタイムに同僚のみんなで近くのカフェで話していると、後輩の子が思い出したように聞いてきた。
「来月ね。って言っても、式は冬だから。これから準備とか大変で、そっちの方に気が行っちゃって」
「へぇ、いいなぁ。相手、どんな人ですか?」
「普通の人だよ。時々わけわかんないこと言うけど、まぁ、もう5年も付き合ってるし、慣れたかな。だから、“普通の人”」
はははっ、と笑った。
テラスに注ぐ日差しが眩しい。
25歳の夏がきた。
だから不意にあの頃のことを思い出したのかもしれない。
「写真とかは?」
「ないない、持ち歩いてるわけないじゃん」
「つまんなーい」
「顔はねぇ、犬みたいなの。年上なんだけど、あんま年上って感じでもなくて」
「出会いは?」
「友達の紹介っていうか、それもナンパしてきた男を紹介された感じっていうか?」
「何それ!」
「何だろうね。でも続くもんだよね。あたしが一番驚いてるよ、こうなって」
「じゃあ、プロポーズの言葉は?」
「んー。『そろそろ?』って聞かれたから、『何が?』って聞き返したの。そしたら『結婚でもしとく?』って。ありえないでしょ」
「えー?! 一生の記念がそれですか?!」
「だよね。でも、そういう人なのよ」
「それ、愛がないと言えない台詞ですよね。ごちそうさまです」
「いやいや、お恥ずかしい限りです」
「でも、ほんと羨ましいですよ。私も早くしたいです、結婚」
結婚、ねぇ。
まぁ、実際、あたしもまだしてないから実感ないし、よくわかんないけど。
あの時の雪ちゃんも今のあたしみたいな気分だったんだろうか?