《短編》夏の雪
雪ちゃんとは、あれから一度して会うことはなかった。

連絡すら取り合ったことはない。


修司くんとは、あの秋に偶然街で再会した。


それからふたりで会うようになって、付き合ったりもしたけど、3ヶ月くらいで終わった。

別れた理由は様々だけど、でも一番大きな要因は、きっとあたし達の間に雪ちゃんがいなかったからだろう。



あたしも修司くんも、確かに好きな気持ちはあったはずなのに、なのに結局は、どこか互いの中にあの夏の、雪ちゃんの影を求めていたんだと思う。



「ところで、お相手の名前は?」

「健一。“健康第一”の健一。ちなみに次男」


健一と知り合ったのは、短大を卒業する前くらい。



その頃のあたしは、家族間のトラブルだとかで悩んでいた。

大好きだったおじいちゃんが亡くなり、愛猫(安田さん)が交通事故に遭って右足を失い、高校生だった弟は非行に走って学校を中退するとか言い出して、お母さんは病んだ。


健一は、そんなあたしをずっと支えてくれた人。



「夏美さん、幸せそうですね」

「そうだね。幸せだよ、あたし今」


もしもあの時、雪ちゃんが“カノジョのみっちゃん”と結婚してなかったら、あたしはもしかしたら今もグダグダしながら雪ちゃんとの何だかよくわかんない関係を続けていたかもしれない。

きっと、それはそれで、そこにも幸せと呼べるものはあったかもしれないけれど。



「あたしさ、健一と出会えてよかったと思ってるから」





ねぇ、雪ちゃん。


あたし達の運命の糸は繋がってはないなかったけれど。

でも、あの頃のことは、今も忘れることなくあたしの記憶の中にあるの。




だから、
楽しい思い出をありがとね。







END
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