《短編》夏の雪
嫌な感じの人。

あたしの顔は怪訝になる。


何だか試されているようなその目が嫌い。



「彩音は、言って聞くような子じゃないし。まぁ、本人がいいんなら、相手がどんなのだろうと、いいんじゃないの?」

「ふうん」


含みを持ったような笑み。

あたしは負けないように、少し睨む。



「で、“修司くん”は?」

「ん?」

「ろくでなしなの?」


あたしの問いに、だけども彼は動じることなくふっと笑い、



「どっちかって言うとまぁ、ろくでもない方の部類だわな、俺も。雪と種類は違うけど」


変な人だと思った。

いい人ではなさそうだけど、でも悪い人でもなさそうに感じてくるから不思議。



「普通さぁ、ナンパに引っ掛かった馬鹿女にそんなことご丁寧に忠告する? 折角のヤレるチャンスを棒に振るかもじゃん」

「別に。そしたらまた次を探せばいいだけだし」

「あっそ」



嘘でもそこは否定しろよ。



「けど、世の中、ろくでなし男を、ダメだとわかっていながら好きになっちゃう子が多いわけで」

「………」

「雪はさ、引き寄せちゃうんだろうな、そういうの」


ふう、と長く吐き出された煙草の煙。

格好つけんな、ボブ・マーリー。


だけど、その言葉には一理あるから、反論しない。
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