カキタレのナミダ
チヒロくんは歩きながらも女の子に囲まれていて、バレンタインのチョコをもらっていた。
「ねぇねぇチヒロくん、今日は大阪帰るの?」
制服を着た大きな体をした女子高生がチヒロくんに話しかけていて、わたしの前をふさいでいる。
「おお、帰るで」
「チヒロくん!」
わたしも思い切って声をかけた。
「んー?」
チヒロくんはこっちを見てくれた。
「もらってください!」
すでに両手は荷物とプレゼントでいっぱいだったけれど、わたしの差し出したプレゼントの紙袋を受け取ってくれる。
「ありがとう!」
そう言ってわたしの目を見て、ニッコリと笑ってくれた。
目が合った。
テレビの中だけのチヒロくんが、わたしのことを見た。
わたしに笑いかけてくれた。
なんてキレイな目なんだろう。
しかしそれも一瞬で、また違う女の子にわたしは押しのけられた。
「来月の大阪の単独ライブ、わたしもうチケット取ったよ!楽しみにしてるからね」
「ホンマいつもありがとうな」
取り巻きの女の子の一人が、正面から歩いてきたサラリーマンの人にぶつかる。
「あ、すいません!」
ひの女の子ではなく、チヒロくんが謝る。
「ほら、こんな集団なってたらみなさんに迷惑やからな、もう着いてきたらアカンよ」
「はーい」