【短篇】しおり-AquaTimez-
花屋のある駅から電車に乗って、1つ先のいつもの駅にまた戻ってきた。
ホームに降りて、走って出口まで行った。ふと、出口で足が止まった。俺の目に、あの時計台が映った。いつも俺が見てる風景とは違っていた。
ユカは、いつも、ココで俺を見つけて走ってきてたんだなぁ。そう思いながら、自然と時計台の方に足が向いた。


時計台の前で足を止めて、俺は、ユカとココで待ち合わせをしていた時のコトを思い出していた。

愛おしくてたまらないあの笑顔がココに、そして、俺の横にいつもあったんだ……。


そして、俺はまた走り出し、ユカのアパートへと向かって行った。
走るのが疲れても、そんなコトを気にするコトなく走り続けた。

もし、もうユカがいなかったらとか、そんなコトは考えなかった、いや、考えたくなかった…。ただ、一緒に居てほしい…、それだけを伝えたかった。

やっと、ユカのアパートに着いた。だけど、アパートの入口からその一歩を踏み出すコトができなかった…。
疲れたからではない、ココにきて俺に不安だけが襲ってきたからだ。
もし、もうユカが居なかったら……。

気持ちを落ち着かせ、気を入れ直して俺はアパートの階段を登り、ユカの部屋の前に立った。





そして、ゆっくりと部屋のボタンを押した。
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