【短篇】しおり-AquaTimez-



時計台から、17時を告げるチャイムがなった。


あと2分半すれば、いつものよーに、駅の出口からユカが小走りで駆けよってくる。
そして、寄り添って歩き出す二人が居る。
なぜか、そんな気がした…。


もちろん、そんなコトがあるはずはない。
俺は、2分半過ぎるのを待つコトなく歩き出した。

聞こえてくる足音は一つだけ。
不思議と悲しくなんかはない…。
ただ、ユカを忘れられる心が、『明日』という日に向かうには、まだしばらく時間がかかるだろうけど……。





誰かの為に仕事を一生懸命になるのはいいコトだけど、俺は、今はとりあえず、自分の為に精一杯仕事を頑張ろうと思った。
それが、本当に自分の為であって、ユカの為でもある、そう思ったからだ。


今日は、ホントに風が気持ちいいなぁ。ふと、立ち止まり、キレイな夕暮れを見上げ、俺は思った。



(ユカ、今ユカの瞳には、何が映ってるんだろう?キレイな景色が見えてるのかなぁ?

今、どんなコトを想ってる?俺を想い出すコトなんてあるのかなぁ?俺がいつも想ってるのは、まだユカのコトばっかだよ…。

ユカが今、俺に望んでるコトは、多分…、自分の為に自分らしく生きていくコト、きっとそーだよな?)


俺には、幸せの在りかなんか、まだよくわかんないけど、……一歩ずつ、そう一歩ずつゆっくり歩いていくよ…。





俺はここで、自分の物語に『しおり』をはさみ、ゆっくりと自転車を押し歩きながら、空を見上げ呟いた。


「……今日も、あなたが『好き』でした…。」





      〜END〜
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