茜の空
約束の日。
ニコニコ顔の長谷川鈴江氏を前に、
試作のロールケーキを差し出す。
最初に謝った。
『すみません。長谷川先生がおっしゃるあの味を出せたかどうかはわかりません。御期待に添えなければ申し訳ないです。』
何回か失敗しちゃったからな~。
緊張しすぎ…。
見た目は以前と同じでシンプルなもの。
何も言わず、長谷川先生は一口食べた。
少し俯いてフォークを置く。
味をたしなんでいる様子。
この空気、こ、怖い~!!
あぁ…ダメかもしれない…。
『これ、何回作り直したのかしら?』
何もかも見透かすように、
沈黙を破った第一声。
『……3回はやり直したかと。』
正直に答えた。