たんすの中の骨1
私の町の主成分は、山と田んぼと川と海だ。
一応観光地として有名なこの場所は、夏になれば海と高原地にそれなりに若者が集い、冬になれば温泉街にそれなりに老人が集う、というかなりのんきなロケーションだ。
そして私の家、というかペンションは、海岸沿いの国道のわきの、小高い丘の上にある。
「ちょっと!」
坂道を足早にくだり、角を曲がると、アンは私に追いついた。
眼下に広がる春の海も、人がまばらに遊ぶ浜辺も、私のおかしな緊張をあおっているようだった。
「イヴ、かばん忘れてる。あと乙女として、猛ダッシュは、ない」
バス停の前。
彼女はぜぇはぁ言いながら、短い黒髪にとめた、かわいいビジューのついたピンを直し、ついでに私をくるっと回して、ぐしゃぐしゃになったポニーテールも縛りなおした。
「アン!どうしよう!しゃべっちゃった!」
私はまだどきどきしていて、こめかみから玉の汗がつぅ、とつたう。
「どうしようって・・・全然会話じゃないからね。あれは」
「えぇっ」
彼女に髪をひっつめられながら、さっきまでの「怒涛の急展開」を思い出す。・・・。
なるほどたしかにそうかもしれない。
私の勝手に舞い上がって、空まで飛んでいきそうだったハレルヤな気持ちが、またもや勝手にしゅるしゅると縮む。