たんすの中の骨1


初夏が近づいている。

教室の窓から見える遠くの波も、時おり吹く突風も、ゆるゆると暖かい気がする。

次の日の放課後。
騒がしい教室の中で帰り支度をしていると、一人の男の子がやってきた。

「佐倉」

廊下で私を手招きするのは、幼なじみの泉京介だ。
私はかばんを肩にかけて、いそいそと駆け寄る。

「泉!はやいね!」

「お前が遅いの」

そういって泉は私の頭をぽこん、とたたいた。
最近泉はぐんぐん背が伸びて、筋肉がほどよくついて、(相変わらず浅黒いけど)中学の頃のおさるさんだった彼はどこかに行ってしまったみたいだ。
気がつくと、今では私を覗き込むように見下ろして話すようになった。
伊吹ちゃん帰ろぉ、と迎えに来てくれた頃なんかとっくに忘れたに違いない。

泉のくせに生意気な。

「行くぞ」と、ぶっきらぼうに私を置いて昇降口へ向かう。

「待って」と、私が慌てて追いつくと、泉はきちんと歩調を合わせて歩いてくれた。
なんなんだこいつ。

泉は最近、優しいのか、意地悪なのか、どっちなのかわからない。

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