たんすの中の骨1
01章
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目の前のことにひどく打ちのめされて、絶望・・・とまではいかないけど、心の底から疲れてしまうことがある。
そうなった時の私は単純で、誰とも口を利かず、食事も取らず、髪の手入れも早々に、自分のお気に入りの部屋に引っ込んでしまう。
海がみえる小さな丘の上の、小さなペンションの、ある女性が少し前まで使っていたところだ。
その部屋は木彫りでできたらせん状の階段をのぼったすぐ右にあって、角部屋にしては狭く、一人でひっそりと暮らすには十分な窮屈さだった。
埃っぽいラベンダーの香りが鼻をくすぐる。
扉のすぐそばには洋物の衣装箪笥があって、どっしりとしたその中にはまだ『彼女』がいるような気がした。
正面のフランス窓を開け、私は月光にてらてらと輝く海を見つめた。