Fahrenheit -華氏- Ⅱ
ガタガタっ
俺は危うく椅子から落ちそうになった。
その物音に驚いたのか、蝶…もとい蛾はひらりと窓の外に飛んでいった。
俺は慌てて窓を閉める。
「これでヤツはもう入ってこれまい」
得意げに言うと、佐々木が呆れたように肩を竦めていた。
「普通間違えますかね。あれはどう見たって蛾でしょう?」
「だってきれいな色してたぜ?」
「とまり方が違ったでしょう?それに綺麗な色した蛾だってたくさん居ますよ」
これだから都会育ちは…
なんてぶつぶつ言いながらも佐々木は、俺のデスクに無造作に放り出されたプライベート用の携帯に視線をやった。
「部長、光ってますよ」
「あ?」
佐々木の視線の先を見て、俺は携帯を手に取った。
携帯のランプは青色に点滅していた。
つまりはメール受信ってこと。
どうせくだらない宣伝メールだろう。
瑠華からは滅多にメールがこない。遠く離れていてもそれは変わらず、あんまりメールとか電話が好きじゃないんだな、と勝手に解釈してる俺。
クスン…啓人クンちょっと寂しい……
そう思って何気なく見ると、
メール受信:瑠華
になっていて、俺は目を開いた。