Fahrenheit -華氏- Ⅱ



「我想和你永遠在一起」


俺は携帯を握りながら、笑顔で答えた。


『なんて意味ですか?』


「ひ・み・つ♪」


俺は悪戯っぽく笑って、「帰ってくるまでの宿題ね~」と言ってご機嫌に電話を切った。


我想和你永遠在一起





意味は―――“いつも一緒だよ”





その日は、真咲との過去をすっかり忘れて俺はご機嫌に仕事を終えることになった。


12時半。


残業なんてなんのその♪ちっとも疲れを感じない軽い足取りで会社を出て、すぐの角を曲がると道路に出る。


片側三車線の外苑西通りから一本西の通り。


それほど広くない道で、車の通りも少ない。だから簡単に向こう側が見渡せる。


何気なく、反対側の歩道に視線をやり、俺は立ち止まった。





俺の手の中から車のキーがするりと抜け落ちる。


カラン…


乾いた音だけが、夜の空に吸い込まれていった。



ビロードを敷き詰めたような深い夜空に、ほのかな外灯だけが頼りなげに浮かんでいる。



その乏しい明りの下、






―――真咲が突っ立っていたのだ。






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