Fahrenheit -華氏- Ⅱ
今更恨み言の一つや二つを言いにきたのだろうか。
別れるとき散々俺に罵詈雑言を浴びせてきたってのに、まだ足りないのか?
それとも他の理由―――……
何故だ
その夜はまるっきり眠れなかった。
酒を飲んでも、本を読んでも、仕事をしても、目を閉じても、眠気は一向にやってこない。
食欲もなく、コーヒーだけをやたらと喉に通していたからかな、胃の辺りがキリキリしている。
真咲―――
お前が言った通りだ。
お前が目の前に現われて、俺には多大な影響が出ている。
以前の俺ならそんなこと気にしないさ。
あいつの嫌がらせのような出現にも、笑ってかわすことができる。
だけど今は―――
瑠華が居る。
瑠華が帰ってくるまで、あと二日間。
それまでにどうにかできる問題でないことは明らかだった。
俺はあいつの番号を知らない。実家は知ってるけれど、今もそこに住んでるのかなんて分からない。
実家に出向いて、あいつの母親にでも聞くって言う手もあるが、あいつの母親が俺にあいつの居場所を教えるわけなんてない。
父親が出てきたらもっと最悪だ。
もしかして警察沙汰になるかもしれない。
それぐらい、俺は真咲の一家に恨まれている―――