Fahrenheit -華氏- Ⅱ
結局解決策を見出せないまま、その日の仕事を終えまたも夜がやってきた。
夜中の1時を過ぎて家に帰り、シャワーだけを浴びると缶ビール3本、日本酒1合を空にしたが、相変わらず眠気は一向にやってこない。
テレビも点けず、音のない部屋でただぼんやりと時の流れに身を任せるだけ。
どうしても声が聞きたくて、夜中に一度だけ瑠華に電話を掛けたが、こっちも空振り。
とことん上手くいかないことに嫌気を覚えながら、そのまま朝を迎えた。
眠くないのに、欠伸だけはやたらと出る。
おまけに二日間あまり目を閉じることがなかったので、目が乾燥してじわりと痛みを感じる。
鏡で良く見たら目が充血していた。
案の定コンタクトは目に入らず、已む無くメガネを強いられたわけだ。
「あれ~?珍しい。メガネですか?ダテ??」
と、朝からやたらと元気を振りまいているのは、二村 空太。
仔犬のように尻尾を振ってまとまりついてくる。
正直、鬱陶しい。
「本物だ。ちょっと目が調子悪くてね」
にこりともせずに答えると、二村は引っ込んでいくかと思いきや、俺の周りをうろちょろ。
「メガネもかっこいいですね♪いかにもインテリっぽくていいなぁ。あ!プラダだ」
二村は俺のメガネのテンプルに書かれたロゴを読み上げた。
俺は苛々しながらも、二村をシカト。
こいつにかまってられるほど、今余裕がない。
「おはようございまーす。って、メガネ、珍しいですね」と佐々木も出社してきた。
「調子悪くてね」
あれこれ説明するのも面倒で、俺は細かい説明を省いて仏頂面で答えた。