Fahrenheit -華氏- Ⅱ


「神流部長…?ですよね……」とおずおずと声を掛けてきたのは瑞野さんだった。


瑞野さんは目をぱちぱちさせると、目だけで俺を見上げてきた。


「今日はメガネなんですね。目悪かったんですか?」


「え、まぁ」


「びっくりしました。後ろ姿は神流部長なのに、前から見たら違う人に見えて」


瑞野さんは、ちょっとはにかみながら笑った。


「あー…まぁ印象変わるよね?」


俺は瑞野さんの言葉を受け流しながら、綾子の方を気にした。


角からちょっと顔を覗かせると、ちょうど綾子が通話を終えてこちらに歩いてるところだった。


ヤバっ!


立ち聞きしてたことがバレるとまずい。


「ちょっとこっち来て」と俺は瑞野さんの腕を引っ張ると、俺の後ろ側にあるベランダの方へ向かった。


ベランダの扉からちょっと顔を覗かせると、綾子は社長室に入っていった。


ふぅ~


思わずため息が漏れる。


「あの…部長……?」


控えめに声を掛けられ、俺は自分の腕の中を見下ろした。


「ぅわ!ごめん!」


慌てて身を離すも、瑞野さんは真っ赤になりながら俯いていた。


どうやら俺は小柄な彼女を庇うように抱きしめていたようだった。


何て言うのかな…


体型が瑠華に似てるから、抱きつきやすいんだよね。


って俺は変態かっ!!



と、そんなこと思ってる場合じゃねぇ!!



綾子が浮気―――裕二、お前どーすんだよ!



< 117 / 572 >

この作品をシェア

pagetop