Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「神流部長…?ですよね……」とおずおずと声を掛けてきたのは瑞野さんだった。
瑞野さんは目をぱちぱちさせると、目だけで俺を見上げてきた。
「今日はメガネなんですね。目悪かったんですか?」
「え、まぁ」
「びっくりしました。後ろ姿は神流部長なのに、前から見たら違う人に見えて」
瑞野さんは、ちょっとはにかみながら笑った。
「あー…まぁ印象変わるよね?」
俺は瑞野さんの言葉を受け流しながら、綾子の方を気にした。
角からちょっと顔を覗かせると、ちょうど綾子が通話を終えてこちらに歩いてるところだった。
ヤバっ!
立ち聞きしてたことがバレるとまずい。
「ちょっとこっち来て」と俺は瑞野さんの腕を引っ張ると、俺の後ろ側にあるベランダの方へ向かった。
ベランダの扉からちょっと顔を覗かせると、綾子は社長室に入っていった。
ふぅ~
思わずため息が漏れる。
「あの…部長……?」
控えめに声を掛けられ、俺は自分の腕の中を見下ろした。
「ぅわ!ごめん!」
慌てて身を離すも、瑞野さんは真っ赤になりながら俯いていた。
どうやら俺は小柄な彼女を庇うように抱きしめていたようだった。
何て言うのかな…
体型が瑠華に似てるから、抱きつきやすいんだよね。
って俺は変態かっ!!
と、そんなこと思ってる場合じゃねぇ!!
綾子が浮気―――裕二、お前どーすんだよ!