Fahrenheit -華氏- Ⅱ
結局俺は書類の不備などすっかり忘れて、慌てて裕二の下へ駆けつけた。
システム部に裕二の姿はなく、あいつの後輩がサーバールームで作業していることを教えてくれて、俺はサーバールームに向かった。
ラックに並べられたサーバーの列。
裕二は奥まった通路でしゃがみこんで、何かを打ち込んでいる。
「てめぇ何言ってンだ」
と裕二はいきなり戦闘モード。
「いえ、まだ何も言ってマセンが…」
俺は若干引き腰。
「お前が駆けつけてくるってことは何かあったんだろ?あーっ!くそっ!!うまくいかねぇ!」
八つ当たりでガンっとラックを蹴り上げる。
ご、ご機嫌ナナメ??
「最近サーバーダウンが頻繁に起こってるんだ。システムエラーが続くから、CPUの増設をしてる最中」
と裕二は簡単に説明をくれた。
それがうまくいかないらしい。特殊なパソコンだからなぁ。
裕二たちエンジニアの利用するパソコンは全て施錠管理されたサーバルームに設置されている。
エンジニアは机上に設置されたシンクライアント端末に自身専用のIDカードを差し込み、自身のパソコンと通信するのだ。
シンクライアント端末はハードディスクもメモリも記憶装置を一切持たない為、自身のパソコン、ネットワーク上問わず ファイル等の持ち出しはできない。
昨今の情報漏洩事件等を防ぐ為の万全なセキュリティを求められているってわけだ。
そのお陰で情報の物理的な持ち出しを不可能にすると共に 端末、サーバを施錠管理された専用のサーバルームに設置する事でより安全な環境を構築している云々…
自分の会社だってのに、俺はその辺の詳しいセキュリティをあまりよく知らない。
サーバールームは、だだっ広い部屋で、窓は一つもなかった。
秋だというのに、この部屋はエアコンがガンガンに効いていた。冷却設備を配置して過熱をやわらげられるようにしているのだ。
まるで冷蔵庫の中にいるような感覚に身震いをして、俺は盛大にくしゃみをした。