Fahrenheit -華氏- Ⅱ


「な、何だよ急にっ」


俺は動揺を隠せずに、視線を不自然に泳がせた。


こいつが真咲のことを知ってる筈がない。


って言うか、昔からの連れにだって真咲のことをあまり喋っていないからな。


裕二はメガネを掛け直すと、ちょっと苦しそうに眉をしかめた。


「最近、前に一度関係を持った女からストーカーされててさ」


す、ストーカー!!?


「ど、どうゆうことだよ!」


「二週間ぐらい前に電話があってさ、俺番号消去してたし出なかったワケよ。その後も同じ番号でしつこく掛かってきたから、一回出てみたんだけど…

聞いたら、前に一度勢いで寝た女だったわけさ~」


裕二はまるで他人事のように、さらりと言った。


「で?お前はどうしたわけ?」


「会いたいとか言われて、無理だって断ったけど、そうしたらその女、俺のマンションに来てさ」


「マンション!?」


「おうよ。夜中の二時だぜ?下の玄関先で『裕二ごめんね、ごめんね~』なんて泣いて謝られてみろ!


寝るに寝れねぇじゃん!」


「お前謝られることされたわけ?」


「別に?ってかこっちが悪いだろ。どうやらあの女は、俺をあいつの彼氏と思い込んでいて、俺があいつに会わないのは、あいつに何か問題があると思い込んでるんじゃねぇの」


裕二のマンションはうちよりセキュリティーがしっかりしてるわけでもないけれど、それでも暗証番号がなけりゃ玄関より上に上がることができない。


しかし、夜中の玄関ロビーでそんな若い女がひたすら謝りながら泣いてるのを目撃したら、住人はどう思うか。


「それ…ストーカーじゃん…」


「だからストーカーって言ってンだろ!俺の話聞いてる!?啓人クン!」


まるで般若の形相をした裕二が俺の胸ぐらを掴んだ。


俺はお前が怖えぇよ!



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