Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「で、どーするよ」
俺が聞くと裕二は胸ぐらから手を離して、再びしゃがみ込んだ。
「どーするも何もないじゃん。とりあえず断り続けたら向こうも諦めるだろ?」
俺も裕二の隣にしゃがみこむ。
「そーゆうもん?彼女がいるっていったら?」
「バカか、お前は。ああゆう思い込みの激しい女は何するかわからん。綾子に何かあったらどーするんだよ」
ちょっと…!
ちょっとちょっと…
俺、今こいつの口から信じられない一言を聞いたんですケド!
あの遊び人裕二が。人は変るもんだねぇ。綾子…想われてンなぁ。
当の綾子は浮気中だってのに……
しかもお前バカ呼ばわりされてっぞ?
俺は一途な裕二に心の中でそっと同情し、肩を叩いた。
「過去の女―――かぁ…」
ヤンキー座りをして俺は膝に腕を乗せた。
俺と裕二の状況は明らかに種類が違う。
裕二は歪んでいるとはいえ、それは愛情からくるものだ。
だけど真咲は―――?
あの射るような視線に愛情の欠片も感じられなかった。
五年経った今でもあいつは俺を恨んでいる―――?
俺を恨むならどれだけ恨んでもかまわない。
だけどその憎しみの矛先が
瑠華に変わったら―――?