Fahrenheit -華氏- Ⅱ
どれぐらい眠っただろう。
近くで人の気配を敏感に感じ取り、俺はうっすらと目を開けた。
メガネのない視界で、ぼんやりと人影が映る。
誰だ―――…
「部長、大丈夫ですか?」
誰かが俺の額にそっと触れた。
冷たい感触。
この温度に覚えがあった。
俺はうつろな目をあげて、その人物を見た。
ぼんやりと視界に入ったシルエットは
瑠華だった。
「ふ」
俺はかすかに微笑むと、彼女の腕を掴んだ。
彼女はびっくりしたように一瞬身を強張らせたが、それでもすぐに力を抜いた。
「帰ってきてくれたんだね。予定はあさってじゃなかった?」
彼女は困ったように、眉を寄せた―――ように見えた。
俺の視力で彼女の顔を、表情を読み取ることができない。
よく考えたら、何故瑠華がここに居るのか不思議だったが、
夢を見ているんだ―――と何故か俺は冷静に判断した。
その判断が適切でなかったことを―――このときの俺は知らなかった。