Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「ゆ、夢……?」
目を開けて辺りを見渡したけれど、そこには誰の気配もなかった。
テーブルに置いたメガネを引き寄せて掛けても変わらない。
ドアはきっちり閉まっていたし、照明も入ったときのまま。
夢―――かぁ…それにしてはリアルだったな…
俺はそっと唇をなぞった。
良く考えてみれば分かることだ。
瑠華からキスされることなんてあんまりないのに。
―――考えて悲しくなっちゃうよ、俺……
キスも抱っこも、もちろんその先も―――瑠華としたいなぁ
彼女のことを思い出し、俺はスーツの上着からフラクミュラーのmomo2を取り出した。
ピンクも文字盤は
8時を差していたが、秒針は完全に止まっていた。
あれ?止まってる―――??
電池切れか?
止まった時間
いつからだったのだろう。
気付かずに居たみたいだ。
腕時計をじっと見つめていても、止まったままの時間は動き出すことはなく、
その様子に何だか嫌な予感を覚えつつも、
それが気のせいであることを俺は願った。