Fahrenheit -華氏- Ⅱ


考えてみりゃ、たかだか時計の時間が止まったぐらいだ。


電池が消耗していたと考えるのが妥当じゃないか。


それなのに言い知れない不安に、俺は瑠華の携帯に電話を掛けた。


『お客様のお掛けになった番号は現在電波の届かない場所におられるか…』


と言う虚しいアナウンスを最後まで聞かずして、俺は電話を切った。





電話を掛けた後で、俺は頭の中で時差を計算した。



今が大体12日の15時とすると、向こうでは12日、夜中の1時だ。


考えてみれば寝ていてもおかしくない時間だ。


そして俺はもう一つのことに気付いた。



真咲の出現で、つい忘れていたが、





11日は東京でもニューヨークでも過ぎている。


もう12日だ。




だから昨日の夜電話を掛けた時、瑠華が出なかったと考えたら辻褄が合う。


俺の不安を抱えたまま、時間は確実に過ぎていくってわけだ。


俺はピンクのフランクミュラーを見つめて、じっと考えこんだが、


幾ら考えても過ぎてしまったことをあれこれ考えても仕方がない。


いい加減なところで区切りをつけると、俺は部署に戻った。


それでも顔色がすぐれないのか、部署に戻った俺は佐々木に帰るよう命令された。


思えば佐々木が俺に指図するのってこれが始めてかもしれない。


それぐらいあいつもびっくりしたってことだな。


ま、たまにはいいか。早く帰るのも。


ってな具合で一階ロビーまで降りていくと、綾子と鉢合わせた。


「どーしたの?顔色悪いじゃん」と珍しく優しいお言葉。


「分かんね。風邪引いたかも」


「やだ。移さないでよ?」と綾子は口を覆った。


前言撤回。


祐二と同じ反応するな!この浮気女っ!!



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