Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「帰るの?」綾子はちょっと戸惑いながら、俺を見上げてきた。
「帰るよ。帰って寝る。どーせ瑠華が居ないし、無駄に残ってても意味ねぇもん。明日もあるし」
「ふぅん。事故らないように気をつけてよ」
と、それだけ言うと綾子はさっさと言ってしまった。
冷てぇ女だぜ。
しかも携帯見てるし。
また浮気かよ!
って、今はそんなことどーでもいい。
薬……あったかな?そんなことを考えながら、俺はふらふらする足取りで駐車場に向かった。
途中ドラッグストアに寄って、風邪薬を購入した。
何が効くのか分からなくて、薬が陳列された棚を眺めていると薬剤師のお姉さんがにこにこ顔で説明してくれたっけ?
白衣の似合うなかなかエロいお姉さんだった。
「独り暮らし?看病したいな♪」なんて言い出してくる辺りかなりエロいし、しかも俺好みの美人だった。
だけど俺は笑顔でスルー。
「実家です。ママに看病してもらうから平気♪」
あいにく俺にはそのママが居ねぇけどな。
なんて考えてないで、早く帰って寝よ。
だけど久しぶりに風邪引いちまったし、おまけにちょっと精神的に参ってる。
ナイーブになってるっていうのかな。
心細い―――なんて思うのは…
俺らしくない。
でも、こんなとき瑠華が居てくれればなぁ。
どうしようもなく、俺は愛する人の手の温もりを求めたくなっていた。