Fahrenheit -華氏- Ⅱ
その女は、幼い頃に父親(つまりは俺の叔父に当たる)を亡くしてる。
詳しいいきさつは知らないが、外に女を作って死んだとかなんとか。
だから小さいころから酷い男嫌いだったのに、出来婚だと聞いて正直驚いた。
『違うのよぉ。彼がプロポーズするって決めてた日に、妊娠が分かってね♪』
なんてカラカラ笑ってったっけ。
五年ほど前から、年に2、3回会う仲だ。もちろん、その女とは従兄妹以上の関係はない。
保険会社に勤めている彼女に車やマンションの損害保険を任せてあるから、更新のたびに顔を合わしてお茶をする程度の関係。
『あんたもいつまでも遊んでないで、早く身を固めなさいよぉ。叔父さんを安心させてあげな』
なんて、ありがたぁいご忠言。
結婚―――…かぁ。
瑠華の手を握って、さりげなく薬指の感触を確かめる。
右手だから意味がないんだけど。
9号……いや、7号かな?
女に指輪なんてプレゼントしたことがないからはっきり分からねぇや。
―――いや…一度だけあるな。
大学時代のとき彼女に、ティファニーの指輪をねだられて、ペアで揃えたっけね?
あれはとうの昔に、過去と一緒に―――
捨てた。