Fahrenheit -華氏- Ⅱ
“彼女”は俺を見ると意味深に微笑んだ。
蝶のモチーフがゆらりと揺れる。
「どうして?」
俺は固まったまま微動だに出来ずに居る。
ピンヒールが、再びカツン―――っと響いて、“彼女”が前に進み出てきた。
裾にレースをあしらった黒いスカートの裾が揺れる。
その揺れる様が、まるで優雅に舞う蝶の羽ばたきのように思えた。
黒い羽を持つ美しい蝶―――
これは夢?
そうに違いない。
だって彼女がここに居るはずがないんだ。
「啓―――
会いたかった。びっくりさせようと思って、今日帰ることは黙っておいたんです」
・ ・
瑠華は微笑んで、俺の手をとった。