Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「瑠華―――」
瑠華が現実の女であることを確かめる為に―――夢でないことを確かめる為に、俺は彼女の細い手を強めに握り返した。
「はい」小さく微笑んで首を傾ける瑠華。
「会いたかった」
俺は前触れもなく勢いをつけた腕で彼女を引き寄せて、この胸にかき抱いた。
華奢な体。柔らかい感触。
俺よりも僅かに低い体温。
そのどれもが、しっくりと掌に馴染んで俺はその感触が離れていかないように、しっかりと抱きしめた。
「会いたかった」もう一度呟くと、
「あたしもです」瑠華が小さく頷いて、返してくれた。
彼女が俺の背中に手を回したとき、何か硬いものが俺の背中に当たった。
それを察したのか、瑠華はちょっと体を離すと、
「綾子さんに聞きましたら、啓は帰ったって」
俺と偶然にもお揃いの白い海外製の携帯を顔の前に持ち上げる。
黒い蝶のストラップがゆらゆら揺れた。
「え?綾子??もしかして……」
俺は今朝方、綾子がこそこそ給湯室で電話で話していたことを思い出した。
「もしかして、10時間ぐらい前も綾子と電話してた?」
「ええ。啓を驚かせようと思って、内緒にしてもらってたんです」
『あのバカは少しも気付いてないわ』
綾子の言葉を思い出す。
“あのバカ”っての俺のことかーーー!!!
おのれ綾子めっ!!